当店で買い付ける北欧ヴィンテージの家具達。その家具の中でも日常生活で毎日必ず使用すると言えるチェアは、多くの時間を共にする家具だからこそ良いものを選びたいですよね。ただ、様々なチェアが存在する中からお気に入りの一脚を探すのにもどれを選んでよいかわからないという方も多いはず。そこで今回は当店でも定番チェアのハンス・J・ウェグナーのCH-30をご紹介いたします。
生涯500脚以上の椅子をデザイン、ハンス・J・ウェグナーとは。
ハンス・J・ウェグナー(Hans J Wegner)は1914年デンマークのトゥナーで靴職人の息子として生まれます。13歳の頃から家具職人H.F.スタルバーグの元で家具の修行を始め、17歳で家具職人の資格を取得しました。その後、コペンハーゲン美術工芸学校に入学し家具設計を専攻、卒業する1938年まで多くを学びました。卒業後、デンマークの建築家であるアルネ・ヤコブセン(Arne Jacobsen)の事務所に勤務。ヤコブセンが設計したことで有名なオーフス市の市庁舎の設計にも携わり、議会の椅子や婚姻届を受け付ける部屋に置かれるチェアなど、そこに納める家具のデザインも行いました。1943年に独立し自身のデザイン事務所を開設。彼の代表作となるチャイナチェアシリーズの最初となる椅子はこの頃デザインされました。
ハンス・J・ウェグナーは、その後も数多く名作を残し、1951年にルニング賞を受賞、1997年に第8回国際デザイン賞を受賞するなど、数々の実績を残します。他にもデンマーク王立芸術アカデミーの名誉会員や英国王立美術大学から名誉学士号がハンス・J・ウェグナーに贈られています。1995年にはウェグナー美術館がウェグナーの生まれ故郷であるトゥナーに開館します。
生涯500脚以上の椅子をデザインしたと言われるハンス・J・ウェグナー。彼のデザインした作品は当時のデンマーク社会、住環境、経済状況などを反映し時代に即したデザインであると同時に、半世紀以上たってもなお古さを感じない普遍的なデザインが魅力であると言えます。
CH-30とは?
北欧ヴィンテージの定番チェアCH-30は1954年にデザインしたモデル。”CH”とはメーカー名の”Carl hansen & Son”の頭文字から取っています。ヴィンテージのモデルとしては背もたれがチーク材かオーク材、脚などのフレームはオーク材かビーチ材の仕様となります。座面は基本的に張地を使用していますが、チーク材の突板仕様という珍しい仕様も存在します。長らくヴィンテージでしか手に入れられませんでしたが、近年復刻しCarl hansen & Sonより現行品が生産されています。チーク材を使用したモデルはヴィンテージでしか流通していません。
CH-30のおすすめポイント
当店でも北欧ヴィンテージのチェアの定番として人気のCH-30。そんなCH-30はなぜ人気なのか。当店なりに理由を考察してみます。
①シンプルなデザイン
CH-30の魅力はまずはそのシンプルなデザイン。ぱっと見何の変哲もないデザイン故、日本の住宅や和室をはじめ、さまざまなテイストのインテリアやコーディネートにマッチします。いい意味で際立って特徴のあるデザインではないのですが、わずかに末広がりになった脚や反った後ろ脚の造形、リボン型に作られた貫など細かい部分を見ていくと実はかなり凝ったデザインであることがわかります。また、座面後方の座面裏と座枠にはわずかに空間を設け、さらに脚先を丸くすることで見た目の軽さを演出。湾曲した座面の雰囲気や全体的な佇まいもほっこりな印象で、シンプルで普遍的な美しさが魅力の北欧ヴィンテージ家具の神髄を体現したような一脚。多くの人々にご購入いただき長く愛される理由はこのような部分にあるのではないでしょうか。


②広い座面と背もたれの位置
CH-30の座面幅は約52cmと北欧ヴィンテージのダイニングチェアとしては少しゆったりめの大きさです。そのためゆったり座ることができ、少し斜めに座ったりいろいろな姿勢に対応してくれます。座面の角度や背もたれの高さも絶妙で腰のしっくりくる位置にフィットしてくれます。
③十字の木栓のアクセント
CH-30のひとつの大きな特徴である背もたれの十字の木栓。実はこのデザイン自体にあまり意味はないようなのですが、なんだか表情を持っているようでかわいく見えてきます。この部分が仮にビス留めや単なる丸い木栓だったらなんだか味気なく見えるので、やはりこの十字の木栓がCH-30のアイデンティティですね。

④木の質感
CH-30は現行品でも製造されており、その仕上げは【ソープ】【ラッカー】【オイル】【ホワイトオイル】【ブラック塗装】とあるようですが、当店でヴィンテージのCH-30を仕上げる際は基本的にオイル仕上げです。現行品にもオイル仕上げはあるようで、これは私個人の感覚ですが、ヴィンテージの方が仕上がりが”やわらかい”という印象です。これは優劣付けるものではないので、現行品とヴィンテージで迷われる方はぜひご自身でその質感などを比較してみましょう。

⑤番外編※豆知識
ちなみに③の木栓についてですが、実はこの木栓は背もたれをフレームに固定するためのビスを隠すという目的もあります。ただ、これが北欧ヴィンテージ家具をリペアするお店には厄介で、背もたれを外す必要がある場合は当然このビスを外さないと取れないため、木栓を外す必要があります。しかしこの木栓はきれいに取り外すことが難しいので、基本的に作り直しになります。
また、このCH-30は座面の上からビスで留める造りの為、座面板をフレームに固定した状態で張替をする必要があり、張替をする際少し手間が掛かります。見た目を少しでも良くしたいという思いを感じますが、張替しやすい構造にしてくれたらウェグナーさん、、、と思うお店も多いでしょう。リペアの観点から少し厄介な部分もありますが、チェア自体は素晴らしいチェアです。

ハンス・J・ウェグナーのCH-30は、シンプルでありながら細部まで計算された美しいデザイン、座り心地の良さ、そして時代を超えて愛され続ける普遍的な魅力を持つチェアです。背もたれの十字の木栓や末広がりの脚など、さりげないデザインが見事に調和し完成度の高いチェアとしてどんなインテリアにも馴染む懐の深さを備えています。チーク材の仕様や長年使い込まれた木の質感は、新品にはないヴィンテージならではの魅力もあります。リペアの際には少々手間のかかる構造ですが、それも妥協のない美しさを追求したウェグナーの思いの表れと言えるでしょう。半世紀以上の時を経た今でも多くの人々に愛され続けているCH-30は、北欧家具の神髄とも言える「永く使える良質な椅子」の代表格として、これからも私たちの暮らしに寄り添い続けることでしょう。当店ではこちらのハンス・J・ウェグナーのCH-30を始め、さまざまな作品をデンマーク現地から直接買い付け、丁寧にリペアしご紹介しています。お探しの作品がありましたらご遠慮なくお問い合わせくださいませ。
北欧家具tanuki 北島