異なる土地のフィン・ユール邸には実は違いが。その変遷から見えてくるものとは?

北欧ヴィンテージ家具好きなら一度は訪れたいフィン・ユール邸。私店長はデンマーク買付の道中に度々現地のフィン・ユール邸は訪れたことがあるものの、長年高山のフィン・ユール邸は機会がなく行けず仕舞いでした。そんな中、今回はたまたま3週間のうちにデンマークと高山の両方のフィン・ユール邸を訪れる機会に恵まれたので、今回はフィン・ユール邸の変遷をテーマにブログを書きたいと思います。


フィン・ユールとは?

フィン・ユール(Finn Juhl)は1912年デンマークに生まれ、コペンハーゲンの王立デンマークアカデミーで建築を学びます。卒業後、デンマークを代表するモダニズム建築家ヴィルヘルム・ラウリッツェンの事務所で10年間働き、1945年に独立。インテリアと家具のデザインを専門とする事務所を設立します。彫刻家のような発想でデザインフォルムを生み出し、技術的にも時代の先端を行く家具を多く発表しました。 ユールのキャリアは、毎年開催されるコペンハーゲン家具職人組合の展覧会への参加によって開花されます。この展覧会は、若手建築家と伝統的な家具職人とのコラボレーションを通じて、デザインの革新を支援する国のイベントでした。職人であるニールス・ヴォッダーとのパートナーシップで大きな成功を収め、「ペリカンチェア」や「チーフテンチェア」など、数々の重要な作品を制作した。

フィン・ユール邸とは?

デンマーク現地のフィン・ユール邸は、フィン・ユールが1942年に自ら設計・建築した自邸。現在はコペンハーゲン郊外のオードロップゴー美術館の敷地内にあり、最初の建築から改築増築がされた最終形が残された状態で一般公開されている。

飛騨高山のフィン・ユール邸とは?

岐阜県高山市にあるフィン・ユール邸は、フィン・ユールが1942年に建てた自邸を2012年に株式会社キタニの敷地内に忠実に再現し建てられた施設で、NPO法人フィン・ユール アート・ミュージアムクラブによって運営されています 。施設内は見学が可能で、今回伺った際にはたっぷり1時間強の解説をしていただいた。常に同じ家具を展示しているわけではないので、時期によって置いてある家具は異なる。

両者の違い

両者の最大の違いは、現地のフィン・ユール邸は改築増築が繰り返された最終形態が残されているのに対し、飛騨高山のフィン・ユール邸は一番初期の図面をもとに建てられたという点。その違いを見ることで時代とともにどのように変化していったのかを読み解く手がかりとなる。早速見てみましょう。

 

現地フィン・ユール邸
高山フィン・ユール邸

まずは外観から。現地のフィン・ユール邸と同じ方角を向くように建てられている。国内だと一般的には南を向く大きく光を取り込むための開口部が西を向いているが、緯度の高いデンマークでは冬になると太陽の高度が低い状態が長く続く夕方のような天気となり、それに加えて夕方には仕事を切り上げて夜は家族と過ごすという文化柄、その西日を有効的に活用するために西を向いているのだそう。太陽の光が黄色いオーニングを通過することによって、室内に暖かみある色を取り込む工夫がされている。左側の建物は改築されていない分、高山フィン・ユール邸の方が短い。ベンチ上の藤棚は、高山が雪国のため設置を見送ったそう。

 

現地フィン・ユール邸
高山フィン・ユール邸

リビングエリアへ。東側の壁には本棚と共に小さめの窓。戦時中に建てられたため、空襲警報時の灯火管制が発令された際、すぐに閉められるようレールがない吊り戸を採用している。

現地フィン・ユール邸

現地フィン・ユール邸では窓枠の上部が青く塗られているが高山フィン・ユール邸は塗られていない。塗られていないのが初期かどうかは解説員の方もわからないという。

 

高山フィン・ユール邸
高山フィン・ユール邸

現地と高山では置かれている家具が異なる。高山フィン・ユール邸ではキタニ製のNV53に加え、その前に置かれたテーブルは、この建物の構想当時、再現するなら面白いものをと考え、昔の雑誌に掲載されていたNV53の前に置かれていたこのテーブルを再現して作られた。わずかに折りたたみできるバタフライ式天板は、立食パーティーをするときに少しでもスペースを広げるためにデザインされたと想定されるそう。

現地フィン・ユール邸
高山フィン・ユール邸

現地ではチーフティンチェア、高山ではブワナチェア。奥のテーブルは幅広の一台のテーブルを使用している現地に対して、現地では小さいものを二つ並べている。

 

現地フィン・ユール邸
高山フィン・ユール邸
現地フィン・ユール邸
高山フィン・ユール邸
高山フィン・ユール邸

フィン・ユールのカクテルベンチ。クッションを畳めば片方はサイドテーブルとして使用できる。簡便なベンチですが、外を眺められるこの空間においては特等席。

 

現地フィン・ユール邸
現地フィン・ユール邸
高山フィン・ユール邸

 

現地フィン・ユール邸
現地フィン・ユール邸
高山フィン・ユール邸

初期の図面ではこちらの部分には棚はなかった模様。こちらのスペースから中二階のようになっているが、現地では地下室がある関係で高くなっている。高山のフィン・ユール邸には地下室はない。

 

現地フィン・ユール邸
高山フィン・ユール邸

玄関を入ってすぐ左側の仕事部屋。床はコンパスなどの設計に使う道具を落としても問題のないようコルクの床になっている。初期図面ではリビングに抜ける扉があるが、現地フィン・ユール邸では壁になっている。

 

現地フィン・ユール邸
高山フィン・ユール邸

ダイニングエリアは特に増改築はない模様。

現地フィン・ユール邸
高山フィン・ユール邸
現地フィン・ユール邸
高山フィン・ユール邸

ゲストルームとなっている部屋は元々は子供部屋。二度結婚しているフィン・ユールは、最初の奥さんと離婚した後、子供部屋をゲストルームにしたそう。壁にイグサを使用していて、時間割や図面などを壁にピンで留められるようにするためのものだったとのこと。現地には天窓はあるが、高山にはない。

 

現地フィン・ユール邸
現地フィン・ユール邸
高山フィン・ユール邸
高山フィン・ユール邸

初期と比べると最も違いのある部屋はこの寝室。二人目の奥さんがもっと空間が欲しいということで壁をぶち抜いて増改築した。家具のデザインに置いて構造音痴とも呼ばれ強いこだわりのあるデンマークの巨匠中の巨匠フィン・ユールですが、奥さんの意見を取り込んで増改築するという点になんだか人となりや人間味を感じます。高山ではシングルベッドを二つ並べているが、これはアメリカのベーカーファニチャーに提供した当時の図面からキタニが再現して製作したもの。構造的に意味があるかは疑問だが、フィン・ユールらしい貫が特徴。

高山フィン・ユール邸

このほか、現地にはない靴を履くためのソファが高山フィン・ユール邸には設けられている


今回、デンマークと高山という異なる土地に建つ二つのフィン・ユール邸を訪れることで、初期設計と最終形との違いをじっくりと観察することができました。現地邸には、時代とともに変化した生活様式や家族構成が反映されており、一方で高山邸には、フィン・ユールが描いた初期の理想の住まいが忠実に再現されていますが、家族構成の変化や奥さんの意見によって増改築が行われた点には、フィン・ユールの人間味や柔軟性、そして彼自身の人生の軌跡が垣間見え、建築を通じて彼の変遷を追体験しているような感覚でした。

今回ご紹介した内容以外にも、フィン・ユールらしい繊細な作り込みや、空間に込められた思索の跡が随所に見られるフィン・ユール邸。建築家として「人が心地よく暮らすとはどういうことか」を問い続けたフィン・ユールの邸宅は、今を生きる私たちにとっても、住まいのあり方を考える大きなヒントを与えてくれる存在です。ぜひ一度、実際に足を運んでその空気を感じてみてくださいね。

 

北欧家具tanuki 北島

背板がなくすっきり。北欧ヴィンテージのオープンシェルフの魅力とは?

当店で取り扱う収納系の家具にはチェストやサイドボード、ワードローブまでさまざまなタイプがありますが、その中でも特に人気な商品がオープンシェルフ。当店でもデンマークやスウェーデンで見つかれば買い付け、おしゃれなお部屋を特集した雑誌やSNS上でも見かけたことがある方も多いはず。そんなオープンシェルフはなぜ人気なのか、その魅力を解説します。


オープンシェルフとは?

厳密な定義はありませんが、当店ではこちらの画像のように棚部分の背板がなく抜けているシェルフをオープンシェルフと呼んでいます。基本的に下段は引き出しや引き戸の収納になっており、下段は上段よりも奥行きが浅い造りになっています。当店で取り扱うヴィンテージ品のオープンシェルフはもちろんデンマーク製も見つかりますが、スウェーデン製の方が流通量も多く見つかりやすいです。

 

オープンシェルフの魅力とは?

そんなヴィンテージのオープンシェルフの魅力とはなんでしょうか。下記にまとめます。

①高さの割に圧迫感がない

②収納力抜群

③ディスプレイする小物が栄える

④デスクとして使えるモデルもある

⑤チーク材などの希少な材を使用

 

①高さの割に圧迫感がない

下段に比べ上段の奥行きが浅い。

オープンシェルフの基本的な構造は下段は引き出しや扉が付いた収納、上段は背板がない棚の構成となっておりますが、上段は下段に対して奥行きが浅い造りになっている且つ背板がないため、高さの割に圧迫感を感じにくいデザインになっています。背板があると物が奥に落ちなかったり便利な面もありますが、背が抜けて壁が見えることでそこに背の高い家具があることを感じにくく、狭いお部屋でも窮屈に感じにくくなっています。

②収納力抜群

もちろんそのオープンシェルフの構造にもよりますが、上段は棚のみのシンプルな構造が多いため、本から小物までたくさんの収納に対応してくれます。下段も複数段引き出しがあるなど、なんでも収納できます。

上段が棚のみのシンプルなタイプ。
上段にガラス扉や引き出しがついたタイプ。
上段に引き出しや仕切りがついたタイプ。
幅が狭いタイプもあります。

③ディスプレイが栄える

背が抜けていることでディスプレイされた輪郭がはっきりしてとても引き立ちます。光の入り具合にもよりますが、背面からも光が入るのでガラス小物などもよりきれいに見えることもあるでしょう。言わずもがな北欧ヴィンテージなので、オープンシェルフ自体のデザインもシンプルで主張しないので、お部屋にすっと馴染みつつ小物を引き立ててくれます。

④デスクとして使えるモデルもある

オープンシェルフはモデルによってビューローのように手前に引き出せる天板が付いているものもあり、簡易的なデスクとして使用できるタイプもあります。上段の小物の入れ替えやちょっとした作業スペースの確保など、痒い所に手が届く利便性の高い点も魅力。

⑤チーク材などの希少な材を使用

デンマークやスウェーデンで買い付けたヴィンテージのオープンシェルフは、現代では高価でなかなか使用できないチーク材などを贅沢に使用しています。時間を経なければ表れないような経年変化も魅力です。


当店でも定番の人気商品のオープンシェルフは、北欧らしいシンプルで洗練されたデザインと収納力抜群の機能性を兼ね備えた逸品です。背板がないため圧迫感が少なく、狭い空間でも軽やかに馴染みます。上段はディスプレイに、下段は引き出し収納で実用性も◎。簡易的なデスクとして使えるモデルもあり、使い勝手の良さも魅力です。また、チーク材など希少な素材を使用し、美しい経年変化も楽しめる点は北欧ヴィンテージならではの魅力です。収納や小物のディスプレイに家具をお探しの際はヴィンテージのオープンシェルフもぜひ一度ご検討ください。当店では常時たくさんのオープンシェルフをストックしております。気になる商品がございましたらご遠慮なくお問い合わせくださいませ。

メンテナンス済みのオープンシェルフはこちらから

メンテナンス前のシェルフはこちらから

 

北欧家具tanuki 北島

【tanuki journal】No.15 “現地取材”デンマークの古き邸宅で巡る、北欧ヴィンテージとアートが織りなす心地よい暮らしのヒント

北欧家具tanukiにて取り扱う北欧ヴィンテージ家具・雑貨達。今から50~70年前に作られた作品達は今もなお現代の生活を彩り豊かさや温かみを与えてくれます。当店で出会いを果たした家具・雑貨達が暮らしの中でどのように取り入れられているか、お客様宅を訪問・取材し心地よい暮らしのヒントを探る【tanuki journal】。

第十五弾はデンマーク現地の様子をお届けします。お伺いさせていただいたのはフラワーアーティストのKarenさん宅。北欧ヴィンテージから現代作家の作品まで、様々な要素を取り込みながらもまとまりのある生活空間から心地よい生活のヒントをたくさん学んだ取材となりました。

Karen宅は戦前に建てられたもので、戦時下はドイツに接収されたものの終戦後に再びデンマークが奪還し、現在住まわれているKarenさんご一家が3代目の住人として暮らしている。当時は使用人を雇うほどの裕福な一家が建てたとのことで、建物内に使用人が使うための専用の階段や導線、各部屋に呼び出しの為の呼び鈴まで作られていたとのことで所々に歴史を感じる邸宅であった。


まず玄関を抜けるとダイニングエリアへ。広々とした空間にアルネ・ヤコブセンのアーム付きエイトチェアにピート・ハイン、ブルーノ・マテソン、アルネ・ヤコブセン共作のスーパー楕円テーブル。ご自身で塗られたという壁の青と緑が混ざったような絶妙な色合いの壁、赤いチェアとルイス・ポールセンのコントラスト、庭の緑の配色が絶妙でお互いを引き立てているよう。派手な赤色のエイトチェアもコントラストの赤色が入ることで浮かずに空間に調和している。

ラグで覆われて見えないが、このラグの下の床にも使用人を呼び出す呼び鈴のスイッチが残されている。

ルイス・ポールセン社製PHコントラスト ペンダント。

カラフルなラグは床だけでなく壁面でも活躍。色味だけでなくその風合いから暖かみも感じます。

Bjorn Wiinblad(ビヨン・ヴィンブラッド)のポスター。

建てられた当時からのガラス細工。
同じカラーでのコーディネート。

美しい庭は手入れが行き届いている。こちらのお宅も窓にカーテンがなく、外とのつながりを感じやすくなっている。

日向ぼっこ中。
さらに深い眠りへ。
起きて挨拶してくれました。
立体的なアート作品。こういったアートを取り入れるのが本当に素敵。

リビングから玄関方面へ。

カイ・クリスチャンセンのチェストとミラー。
招き猫のラグ。ショッキングピンクで塗られたヒーターもアート作品に見えてきます。

少し見えにくいですが、丸い窓が素敵。

再びお部屋に戻りキッチンへお邪魔します。このキッチンは元々使用人しか使わない設計で仕切りの壁があったが取り壊してリノベーションをしたそうです。

キッチンの窓辺に照明を吊るすのがデンマーク流。外から見た時にちょうど美しく見える位置に配置されている。

ヴァーナー・パントンのフラワーポット ペンダントライト。

呼び出しのスイッチが押されるとここに部屋番号が表示される。

ダイニングエリアを抜けてリビングエリアへ。ご自身で塗られたという青い壁が印象的。

フラワーアーティストのKarenさんご自身の作品。

Meyer-Lavigneのフラワーポット。

Ana Kraš(アナ・クラシュ)のBONBON SHADE 380ランプ。

窓の向かいには巨大な絵画。作者は不明とのことですがインパクト大です。

絵画や小物、クッションの置き方まで絵になります。

暖炉を囲むエリア。クラシックなステンドグラスからスペーシーなVP グローブまで様々なテイストのものでコーディネートされている。

ハンス・J・ウェグナー、GE290。
ハンス・J・ウェグナー、GE290-3。

ヴァーナー・パントン、VP グローブ。

Bjorn Wiinblad(ビヨン・ヴィンブラッド)のフラワーポット。

暖炉エリアの向かいの窓際スペース。たくさんのアート作品や小物が空間に彩りを与えている。

イルム・ヴィッケルソーのロッキングチェア。

Jo Hammerborg(ヨー・ハーマボー)のOrient(オリエント)。目線よりも低めに配置。

建てられた当時からのステンドグラス。

配置が美しい。

Lars Ejler SchiølerのランプOrigami。

階段を上がって二階にお邪魔します。

ルイスポールセンph4/3。
窓際の植物・小物は定番。

現地で買付の際に、チークの家具にペンキを塗ったものを見かけますが、こういったアクセントで使うのだとなんだか腑に落ちました。

5人家族のKarenさん。長女さんのお部屋ものぞかせていただきました。生活感はありながらも雑然としておらず、すっきりしています。

寝室にお邪魔させていただきました。

本を重ねて小物を飾る方法は、デンマーク現地でもよく見かけます。洋書を重ねるなどして気軽に取り入れやすいインテリアです。

長男さんのお部屋。ヴィンテージ家具は使われていませんが、デンマークのセンスを感じるすっきりとした清潔感のあるお部屋です。

先にも説明した通り、元々住み込みの使用人を雇う前提で設計された邸宅のため、使用人専用の階段が存在していて、住人のプライベートエリアに入れないようになっていたとのこと。

階段の踊り場のアート作品。

地下室へお邪魔します。倉庫として設計されたようですが、奥へ進むと、

黄色いタイルがかわいい。

バースペース。テーブルの天板を取り除くとビリヤード台が現れます。

フラワーアーティストのKarenさん。取材へのご協力ありがとうございました。Thank you so much!

今回はじめてお伺いし初対面となりましたが、丁寧に家中をルームツアーしてくださり終始感動しっぱなしの取材となりました。すべてが美しく、均整の取れたコーディネート、絵画や小物のセレクトセンス、その配置。どこを切り取っても参考にしたくなる美しいコーディネートでした。 私自身も含め、北欧ヴィンテージで揃えようとするとどうしてもチーク材一辺倒になりがちですが、様々なテイストをミックスしたスタイルや、真っ赤なエイトチェアのような大胆なコーディネートも取り入れてみることをお勧めしたくなるほど、印象的な光景でしたまた、日が当たる窓際に小物を飾ることによりガラス小物が引き立ったり、陰影の美しさが際立ったり、時間によって見え方が変わるという点も取り入れやすいのではないでしょうか。たくさんの心地よい暮らしのヒントを学べた貴重な機会となりました。Karenさんありがとうございました。

 

北欧家具tanuki 北島

 

 

 

 

このカゴはいったい?ソーイングワゴンの使い方とその魅力とは?

当店で買い付ける北欧ヴィンテージ家具。チェアやソファなど家具としては定番のジャンルからその国独特のデザインのものまでさまざまな種類が存在します。その中でも日本ではあまり馴染みのない家具のジャンルがソーイングワゴン。籐で作られたカゴが付いているその見た目から、初見でどのように使うのか、どういう目的で作られたのか皆目見当つかないという方もいるはず。しかし、その見た目の可愛さや実用面で日本にはないジャンルながら当店でもとても人気の家具のひとつ。そんなソーイングワゴンの魅力をまとめます。

ハンス・J・ウェグナーのAT33。

ソーイングワゴンとは?

明確な定義はありませんが、当店では手芸用品を収納するためにデザインされたカゴ付きのテーブルやワゴンをソーイングワゴンとしています。基本的に籐や革などで作られた毛糸や手芸用品を収納するためのカゴが付いており、また引き出し内部に針やボビンなどを収納するための専用の作りになっているものもあります。また、移動が簡単にできるように脚のキャスターが付いているものや、作業スペースの為に天板が折り畳み式になっているものも存在します。そのカゴの見た目の可愛さや籐の民芸的な風合いから当店でも人気の北欧ヴィンテージ家具の中のひとつのジャンルです。

 

ソーイングワゴンの魅力とは?

そんなソーイングワゴンの魅力はどこにあるのかさらに詳しく見ていきます。

①カゴがかわいい

まず何と言ってもその特徴は「カゴ」。この丸みを帯びた形がなんともほっこりで癒しの存在です。百聞は一見に如かずまずはいろいろなパターンを見ていきましょう。

ヨハネス・アンダーセンのソーイングワゴン。丸みのあるカゴがかわいい。

Bertil FridhagenデザインBodafors社のソーイングワゴン。

ハスレヴ社のソーイングワゴン。
スウェーデン製のソーイングワゴン。すだれのようなカゴがかわいい。
ヨハネス・アンダーセンのソーイングワゴン。
特徴的な六角形のカゴ。
こちらのソーイングワゴンは布製のカゴ。

日本でも古来より竹ざるや籐細工などが身近に存在していたため、デンマーク製とはいえどこか懐かしい感じがしませんか?それもあってかすっと生活に溶け込んでくれます。

②小物の収納に便利

元々手芸用品を収納するためにデザインされたソーイングワゴンなので、小物の収納に大変便利です。カゴは毛糸や編み物道具を収納していたと思われますが、現代ではテレビのリモコンやブランケット、身の回りのちょっと片づけたいものなどささっと収納できます。カゴは簡単に引き出せて開口部も広いので物の出し入れに使いやすいデザインです。

 

細かい仕切りがあると、小物の収納に便利。

③キャスター付きで移動ができる

多くのソーイングワゴンは移動がしやすいようにキャスターが付いています。小物を収納して重くなった場合でも、キャスターがあると移動がラクチン。ちょっとソファ横に移動したい時など、床を引きずることなく動かせるので大変便利です。

※番外編コーヒーテーブルとソーイングワゴンのハイブリット?

デンマークで買付をしているとほんとうにいろんな種類の家具に出会い、当時の人達の発想に驚くことも多いのですが、そういった中でもこのソーイングワゴンとコーヒーテーブルを合体させたこちらは機能てんこ盛りで今でもよく覚えている一品。こういった変わり種も存在しています。

ソーイングワゴンの最高峰とは?

これまでさまざまなソーイングワゴンを買付してきましたが、その中でも最高峰の一品といえるのがハンス・J・ウェグナーのソーイングワゴンAT33。天板を広げると約120cmまで大きくなるサイズ感に加え、天板や棚板、カゴを引っ掛けるパーツ迄無垢材を使用、内部の仕切りも細かく、手芸用品の収納に大変使いやすい仕様になっています。その造りの良さやデザイン、希少価値からもソーイングワゴンの最高峰といえるでしょう。


元々手芸用品の収納としてデザインされたソーイングワゴンですが、カゴの可愛さに加え現代の生活においてもその実用的な面でたいへん重宝する一品。民芸的な要素はお部屋にほっこり感を与え、これぞ北欧の雰囲気というヒュッゲな空間を楽しめます。当店では常時様々なソーイングワゴンを取り扱っております。お探しの際は当店までお問い合わせください。

メンテナンス済みのソーイングワゴンはこちらから

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北欧家具tanuki 北島

外交官の為のチェア?フィン・ユールのディプロマットチェアの魅力

当店で買い付けるデンマークのヴィンテージ家具達。今回はフィン・ユールのディプロマットチェアをご紹介いたします。通常のチェアよりやや大き目のサイズとなり、ダイニングチェアというよりもデスクワーク向きのチェアとなりますが、その座り心地やフィン・ユールの作品としてはお買い得な価格感が魅力の一脚です。詳しく見ていきましょう。


フィン・ユール(Finn Juhl)とは?

フィン・ユール(Finn Juhl)は1912年デンマークに生まれ、コペンハーゲンの王立デンマークアカデミーで建築を学びます。卒業後、デンマークを代表するモダニズム建築家ヴィルヘルム・ラウリッツェンの事務所で10年間働き、1945年に独立。インテリアと家具のデザインを専門とする事務所を設立します。彫刻家のような発想でデザインフォルムを生み出し、技術的にも時代の先端を行く家具を多く発表しました。 ユールのキャリアは、毎年開催されるコペンハーゲン家具職人組合の展覧会への参加によって開花されます。この展覧会は、若手建築家と伝統的な家具職人とのコラボレーションを通じて、デザインの革新を支援する国のイベントでした。職人であるニールス・ヴォッダーとのパートナーシップで大きな成功を収め、「ペリカンチェア」や「チーフテンチェア」など、数々の重要な作品を制作した。


ディプロマットチェアとは?

1961~62年にデザイン、France & Sonより製造されたフィン・ユールのアームチェア。型番はNo.901。三次元的で有機的な美しい曲線が特徴的なフィン・ユールの初期のデザインとは異なり、機械による量産性を考慮し二次元的な曲面を採用しデザインされたチェア。直線的な造形ではあるが肘の前後や所々にフィン・ユールらしいデザインが垣間見れる。ディプロマット(外交官)の名の通り、各国のデンマーク大使館で使用され、当時ディプロマットデスクなど一連の商品と組み合わせベストセラーとなった。当店で現地で買付を行う際も、比較的まとまった数が見つかることが多く、相場が全般的に高いフィン・ユールの作品としては比較的手に入りやすい作品である。市場でよくみられるタイプとは異なりハイバックタイプも存在する。


フィン・ユールのディプロマットチェアの魅力とは?

フィン・ユールのディプロマットチェアの魅力は下記にまとめられます。

①ゆったりとした座り心地

②背もたれがしなる

③アーム裏の掻き込み

④座面の浮遊感

詳しく見ていきましょう。

 

①ゆったりとした座り心地

まずその魅力はゆったりとした座り心地。チェアの幅は69cmと一人掛けのソファくらいの大きさで、アーム間は54.5cmとダイニングチェアがすっぽり収まってしまうくらいの大きさ。また、座面と背もたれはの内部は中空のフレームに金属のバネを張った構造をしているので、底辺り感がなく心地よい座り心地となっています。腰の部分が程よく盛り上がっているので腰をサポートして姿勢正しく腰掛けられます。窮屈になることなく、長時間座ることに適しているので、デスクワークや商談スペースに最適です。

②背もたれがしなる

フィン・ユールのディプロマットチェアの背もたれはサイドのフレームに固定されておらず、表から見えないのですが背と座が金属のL字パーツで繋がっており、凭れかかるとしなります。見た目のデザインがすっきりしつつも機能的な面はさすがフィン・ユールです。

背もたれとサイドのアームとの間に隙間があることですっきりとした印象になっている。

③アーム裏の掻き込み

有機的で曲線的なアームレストを多くデザインしたフィン・ユールの作品としては直線的なアームのデザインとなっていますが、フィン・ユールらしい造形はもちろんあります。その一つがこのアームレスト裏の掻き込み。表からは見えにくいのですが、アームを手で持った時に収まりが良いようになっており、ついついアームを握りたくなる造形です。また、アーム先端は少し出っ張っているデザインになっており、こちらも手にとてもよく馴染みます。

アーム先端は造形だけでなく杢目も美しい。

④座面の浮遊感

側面から見ると座面が浮いているように見える。

多くのフィン・ユールのチェアに共通する特徴をこちらのディプロマットチェアも備えています。それが座面の浮遊感。フレームから座面に掛けてスペーサーを挟むことで、座面が浮いているように見えます。このことで大き目なチェアながら、軽い印象を与えてくれます。

座面と座枠の間に真鍮製のスペーサーを挟み込み浮遊感を演出。長方形状に段差を付けた座枠の陰影により高級感を感じる。

フィン・ユールのディプロマットチェアは、広い座面やしなる背もたれなど快適に長時間座ることができる実用性と、座面の浮遊感やアームの造形などフィン・ユールらしいデザインも楽しむことができるチェアです。当時ベストセラーとなったこともあり、ヴィンテージ市場においてある程度流通量があるため、他のフィン・ユールの作品よりも安価に手に入れられる作品ですが、年々希少性は増してきており価格も上がってきております。外交官の為にデザインされたと聞くと座るだけでなんだか気分も上がりませんか?デスクワークなどの個人利用から商談スペースまでさまざまな場面で活躍するフィン・ユールのディプロマットチェア、お探しの方やご検討の方はぜひ一度当店までご相談ください。現地から直接買い付けご案内させていただきます。

 

北欧家具tanuki 北島

ハンス・J・ウェグナーのCH-30。北欧ヴィンテージのチェアで迷ったらおすすめの定番チェアの魅力。

当店で買い付ける北欧ヴィンテージの家具達。その家具の中でも日常生活で毎日必ず使用すると言えるチェアは、多くの時間を共にする家具だからこそ良いものを選びたいですよね。ただ、様々なチェアが存在する中からお気に入りの一脚を探すのにもどれを選んでよいかわからないという方も多いはず。そこで今回は当店でも定番チェアのハンス・J・ウェグナーのCH-30をご紹介いたします。


生涯500脚以上の椅子をデザイン、ハンス・J・ウェグナーとは。

ハンス・J・ウェグナー(Hans J Wegner)は1914年デンマークのトゥナーで靴職人の息子として生まれます。13歳の頃から家具職人H.F.スタルバーグの元で家具の修行を始め、17歳で家具職人の資格を取得しました。その後、コペンハーゲン美術工芸学校に入学し家具設計を専攻、卒業する1938年まで多くを学びました。卒業後、デンマークの建築家であるアルネ・ヤコブセン(Arne Jacobsen)の事務所に勤務。ヤコブセンが設計したことで有名なオーフス市の市庁舎の設計にも携わり、議会の椅子や婚姻届を受け付ける部屋に置かれるチェアなど、そこに納める家具のデザインも行いました。1943年に独立し自身のデザイン事務所を開設。彼の代表作となるチャイナチェアシリーズの最初となる椅子はこの頃デザインされました。
ハンス・J・ウェグナーは、その後も数多く名作を残し、1951年にルニング賞を受賞、1997年に第8回国際デザイン賞を受賞するなど、数々の実績を残します。他にもデンマーク王立芸術アカデミーの名誉会員や英国王立美術大学から名誉学士号がハンス・J・ウェグナーに贈られています。1995年にはウェグナー美術館がウェグナーの生まれ故郷であるトゥナーに開館します。
生涯500脚以上の椅子をデザインしたと言われるハンス・J・ウェグナー。彼のデザインした作品は当時のデンマーク社会、住環境、経済状況などを反映し時代に即したデザインであると同時に、半世紀以上たってもなお古さを感じない普遍的なデザインが魅力であると言えます。

CH-30とは?

北欧ヴィンテージの定番チェアCH-30は1954年にデザインしたモデル。”CH”とはメーカー名の”Carl hansen & Son”の頭文字から取っています。ヴィンテージのモデルとしては背もたれがチーク材かオーク材、脚などのフレームはオーク材かビーチ材の仕様となります。座面は基本的に張地を使用していますが、チーク材の突板仕様という珍しい仕様も存在します。長らくヴィンテージでしか手に入れられませんでしたが、近年復刻しCarl hansen & Sonより現行品が生産されています。チーク材を使用したモデルはヴィンテージでしか流通していません。

 

CH-30のおすすめポイント

当店でも北欧ヴィンテージのチェアの定番として人気のCH-30。そんなCH-30はなぜ人気なのか。当店なりに理由を考察してみます。

①シンプルなデザイン

CH-30の魅力はまずはそのシンプルなデザイン。ぱっと見何の変哲もないデザイン故、日本の住宅や和室をはじめ、さまざまなテイストのインテリアやコーディネートにマッチします。いい意味で際立って特徴のあるデザインではないのですが、わずかに末広がりになった脚や反った後ろ脚の造形、リボン型に作られた貫など細かい部分を見ていくと実はかなり凝ったデザインであることがわかります。また、座面後方の座面裏と座枠にはわずかに空間を設け、さらに脚先を丸くすることで見た目の軽さを演出。湾曲した座面の雰囲気や全体的な佇まいもほっこりな印象で、シンプルで普遍的な美しさが魅力の北欧ヴィンテージ家具の神髄を体現したような一脚。多くの人々にご購入いただき長く愛される理由はこのような部分にあるのではないでしょうか。

北欧ヴィンテージの魅力ド直球な美しさ。
後ろ姿も美しい。

②広い座面と背もたれの位置

CH-30の座面幅は約52cmと北欧ヴィンテージのダイニングチェアとしては少しゆったりめの大きさです。そのためゆったり座ることができ、少し斜めに座ったりいろいろな姿勢に対応してくれます。座面の角度や背もたれの高さも絶妙で腰のしっくりくる位置にフィットしてくれます。

③十字の木栓のアクセント

CH-30のひとつの大きな特徴である背もたれの十字の木栓。実はこのデザイン自体にあまり意味はないようなのですが、なんだか表情を持っているようでかわいく見えてきます。この部分が仮にビス留めや単なる丸い木栓だったらなんだか味気なく見えるので、やはりこの十字の木栓がCH-30のアイデンティティですね。

背もたれの木栓。なんだか表情に見えてきます。

④木の質感

CH-30は現行品でも製造されており、その仕上げは【ソープ】【ラッカー】【オイル】【ホワイトオイル】【ブラック塗装】とあるようですが、当店でヴィンテージのCH-30を仕上げる際は基本的にオイル仕上げです。現行品にもオイル仕上げはあるようで、これは私個人の感覚ですが、ヴィンテージの方が仕上がりが”やわらかい”という印象です。これは優劣付けるものではないので、現行品とヴィンテージで迷われる方はぜひご自身でその質感などを比較してみましょう。

ヴィンテージでしか手に入れられない背もたれがチーク材の仕様は、その杢目の美しさや質感も魅力。木栓はオーク材。

⑤番外編※豆知識

ちなみに③の木栓についてですが、実はこの木栓は背もたれをフレームに固定するためのビスを隠すという目的もあります。ただ、これが北欧ヴィンテージ家具をリペアするお店には厄介で、背もたれを外す必要がある場合は当然このビスを外さないと取れないため、木栓を外す必要があります。しかしこの木栓はきれいに取り外すことが難しいので、基本的に作り直しになります。

また、このCH-30は座面の上からビスで留める造りの為、座面板をフレームに固定した状態で張替をする必要があり、張替をする際少し手間が掛かります。見た目を少しでも良くしたいという思いを感じますが、張替しやすい構造にしてくれたらウェグナーさん、、、と思うお店も多いでしょう。リペアの観点から少し厄介な部分もありますが、チェア自体は素晴らしいチェアです。

作り直した木栓。ぴったり収めるために微調整が必要です。

ハンス・J・ウェグナーのCH-30は、シンプルでありながら細部まで計算された美しいデザイン、座り心地の良さ、そして時代を超えて愛され続ける普遍的な魅力を持つチェアです。背もたれの十字の木栓や末広がりの脚など、さりげないデザインが見事に調和し完成度の高いチェアとしてどんなインテリアにも馴染む懐の深さを備えています。チーク材の仕様や長年使い込まれた木の質感は、新品にはないヴィンテージならではの魅力もあります。リペアの際には少々手間のかかる構造ですが、それも妥協のない美しさを追求したウェグナーの思いの表れと言えるでしょう。半世紀以上の時を経た今でも多くの人々に愛され続けているCH-30は、北欧家具の神髄とも言える「永く使える良質な椅子」の代表格として、これからも私たちの暮らしに寄り添い続けることでしょう。当店ではこちらのハンス・J・ウェグナーのCH-30を始め、さまざまな作品をデンマーク現地から直接買い付け、丁寧にリペアしご紹介しています。お探しの作品がありましたらご遠慮なくお問い合わせくださいませ。

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北欧家具tanuki 北島