当店で取り扱う北欧ヴィンテージ家具のチェア。半世紀以上前にデザインされながら今なお作られ続け愛される名作も多数存在することから、北欧ヴィンテージ家具の普遍的なデザインや実用性が世界的に評価されていることが伺い知れます。そんな北欧ヴィンテージのチェアの中でもそのデザインや実用性で高く評価されるカイ・クリスチャンセンのNo.42チェア。当店でもデンマーク買付の際に見つかれば買い付ける北欧ヴィンテージの定番のチェアですが、なぜそれほどまでに人気なのか、その魅力をお伝えします。

カイ・クリスチャンセンとは?
カイ・クリスチャンセン(Kai Kristiansen)は1929年にデンマークで生まれた家具デザイナーです。1948年頃、コペンハーゲンにある王立美術アカデミーに入学し、家具デザイン界の巨匠であるコーア・クリント(Kaare Klint)に師事します。その後わずか26歳で自身のスタジオを開いたクリスチャンセンは、やがてデンマーク・モダンスタイルと呼ばれるようになる家具を作り始め、後にデンマークの著名なメーカーで生産されることになります。
クリスチャンセンはチェア、デスク、サイドボード、ウォールユニットなど、デンマークモダンを代表する家具を製作しており、そのデザインは時代を超えた今でも高い評価を得ています。
カイ・クリスチャンセンのNo.42チェアの魅力
北欧ヴィンテージのチェアとしても定番の一品。そんなカイ・クリスチャンセンのNo.42の魅力は下記5点にまとめられます。
①背もたれが可動する
②ひじ掛けの位置が絶妙
③ハーフアームで収納に便利
④軽量
⑤シルエットが美しい
①背もたれが可動する
まず何と言ってもこのNo.42の特長は背もたれの角度が変わること。座面に深く腰掛けて姿勢正しく座ることはもちろん、少しリラックスして砕けた姿勢にも追従してくれるのでさまざまな姿勢で腰かけられます。この背もたれも背中のちょうど良い部分にフィットし腰を支えてくれます。座面周りも広いので、斜めに腰かけたり、だらーんとだらしない格好で座りこともできます。




②ひじ掛けの位置が絶妙
No.42の初めて座った方がよく驚かれる部分でもあるこのひじ掛け。座って肘を置いてみるとその高さや角度、さらに天面が沿っているのがポイントで上腕に絶妙にしっくり馴染みフィットします。このアームの造形も美しく、それでいて手で持った際の手馴染みも良いという点もグッド。痒い所に手が届く至れり尽くせりなひじ掛けです。


③ハーフアームで収納に便利
カイ・クリスチャンセンのNo.42はいわゆるハーフアームというひじ掛けを持っていますが、こちらも痒い所に手が届くデザイン。座面の先端くらいまでアームがあるデスクワーク用などのアームチェアの場合、腕全体を支えてくれ安楽性は高いのですが、テーブルに当たって天板下に収納できない場合もあります。その点、No.42は通常のアームチェアの半分程度の長さに収められており、アームチェアという機能を保ちつつ、天板下に収納しやすいという実用性も兼ね備えています。テーブルの天板下に収納できない場合、収納時にアームチェアとハーフアームでテーブル周りの導線に約20cmの差が生まれます。テーブル周囲のスペースがあまりない場合はこの約20cmこれがあるのとないのでは意外に違いは大きいです。

④軽量
カイ・クリスチャンセンのNo.42は見ての通り至極シンプルなデザイン、構造をしています。それゆえチェア自体も軽量で取りまわりをしやすいという点も魅力です。北欧ヴィンテージのチェアでは通常は座面全面が板で作られていることが多いのですが、こちらは枠で構成されているため、軽量化がされています。ちなみにこの枠に当店ではダイメトロールという布ばねを使用して張り替えるため、底辺り感がなくよい座り心地にも貢献しています。
⑤シルエットが美しい
北欧ヴィンテージのチェアの中にはシルエットが美しいチェアがたくさんありますが、こちらのカイ・クリスチャンセンのNo.42も美しいシルエットを持つ一脚。特に斜め後ろからのアームの造形や後ろ脚が見える角度が美しい(と個人的に思います)。脚は内向きになっているので、スタイリッシュな印象でありながら、4本脚が垂直になっているチェアと比べて脚まわりのスペースを取らず、椅子を引く動作で足を引っ掛けることも少ないデザインになっています。
カイ・クリスチャンセンのNo.42、現行品との違い
現在宮崎椅子製作所で製造が続けられているNo.42。現行品とヴィンテージの違いはどのようなところでしょうか。
①材の違い
②アーム横の木栓の違い
③座面下の違い
④フレームの細さや造形
⑤ヴィンテージでも年代で少しの違いが?※番外編
①材の違い
まずは材の違いです。私がこれまでみた限りですとヴィンテージものは【チーク材】【ローズウッド材】【オーク材】が存在しています。
宮崎椅子製作所で製造される現行品は【ブナ材】【アッシュ材】【オーク材】【レッドオーク材】【欅材】【ブラックチェリー材】【ウォールナット材】となっています。
オーク材は共通していますが、チーク材とローズウッド材はヴィンテージでしか手に入りません。共通しているオーク材も経年変化で飴色に変化している個体はヴィンテージならではの魅力です。


②アーム横の木栓の違い
外観的特徴の違いとしてはアーム横の木栓の違いになります。ヴィンテージは丸みがあり、現行品はフラットに仕上がっています。

③ピボットの金具
カイ・クリスチャンセンのNo.42の特長である動く背もたれ。背もたれ側面についている突起がアーム側にある穴の遊びの中で動くことにより背もたれの可動を実現しているのですが、ヴィンテージはただの穴(若しくは真鍮のカバーをしてある)ですが、現行品は金具で補強されています。ヴィンテージのチェアの場合はこの部分に破損があるものもよく見受けられるため、現行品では強度を高めるために改良されています。

③座面下の違い
現行品には座枠の四隅に隅木を取り付けて補強してあります。ヴィンテージのNo.42にはありません。また、現行品には宮崎椅子製作所のタグと刻印があります。
④フレームの細さや造形
ヴィンテージと現行品の微妙な違いですが、ヴィンテージの方がわずかにフレームが細く作られています(※例外あり下記⑤参照)。また、アーム周りの造形も若干異なります。よりシャープな印象をお求めでしたらヴィンテージをお勧めします。
⑤ヴィンテージでも年代で少しの違いが?※番外編
実はデンマークで買い付けるヴィンテージのカイ・クリスチャンセンNo.42にはフレームの細さが異なる少なくとも2パターンが存在しています。アーム内側の遊びのある穴の仕様(真鍮カバーがあるかないか)や背板の構造(木材以外にもMDFを使用しているものある)、アームの造形など微妙な違いもあるのですが、細い方が古い方と思われます。よりシャープな印象のものをお探しでしたら特に後ろ脚がわかりやすいので見てみましょう。




カイ・クリスチャンセンのNo.42、現行品とヴィンテージ、どちらを選べばいい?
現行品とヴィンテージの違いをお伝えしましたが、結局どちらを選べばいいの?という方はこちらをご参考になさってください。
①価格
一概に言えませんが、現在のヴィンテージ市場の価格感からするとヴィンテージの方が現行品より価格は高いです。デンマークに家具を買い付けに世界中からバイヤーが訪れ、現地での供給量とその需要の関係で現地の価格は落ちず、近年の円安の影響もあり今後も価格は落ちそうにありません。もちろんチーク材やローズウッド材はそもそも現行品で作られていないためその希少性や材の価値の違いがありますし(※以前は宮崎椅子製作所でもチーク材仕様を製造していましたが現在は中止)、現代でチーク材やローズウッド材で新規で同じものを作ろうとすると、ヴィンテージで購入する以上の価格になると思われるので、チェアを価値を考えると決してヴィンテージの価格が高いということもないと思います(ローズウッド材のものはそもそも作れません)。
②耐久性
1954年にデザインされたカイ・クリスチャンセンのNo.42。当店で買い付けるヴィンテージものの多くは半世紀前に作られたものが中心となり、現在の機械加工の精度や工業規格の違いなどもあり、耐久性としては現行品に軍配は上がります。特にヴィンテージのNo.42はアームの可動部にダメージが発生することがあり、デンマーク買付時はこの部分にダメージがないか見て買付をしています(この部分は現行品では金属パーツを使用することにより改善しています)。ヴィンテージのNo.42も当店ではこれまでかなりの数を販売しており、経験上メンテナンスをしっかりすれば特に実用上は問題はないのですが、可動するという構造上(現行品も含め)長期に渡る使用において何か不具合が出る可能性は0ではございません。
③材の違い
現行品にはないチーク材とローズウッド材でお探しの場合はヴィンテージ一択です。個体差はありますが、ヴィンテージの経年変化の雰囲気はやはり現行品にはありません。
④見た目
上記で解説した通り、フレームの細さの違いがあるため、よりシャープな印象のものをお探しでしたらヴィンテージがおすすめです。現行品はどちらかというとシャープ寄りに作られているようです。
カイ・クリスチャンセンのNo.42の張替も楽しい
当店で取り扱うカイ・クリスチャンセンのNo.42はもちろん張替も可能です。
背と座を同じ色で張り替える定番スタイルから、背と座をあえて違う色で張り替えるバイカラー仕様もおすすめ。ミナペルホネンのタンバリン柄も定番の可愛さです。当店でこれまで張り替えた中からご参考までにいくつかご案内いたします。ぜひお気に入りの組み合わせを見つけてみてください。







カイ・クリスチャンセンのNo.42を選ぶ際に
カイ・クリスチャンセンのNo.42は、半世紀以上の時を経てもなお多くの人々に愛され続ける北欧ヴィンテージ家具の名作です。その背もたれの可動性、絶妙なひじ掛けの位置、収納に便利なハーフアーム、軽量で扱いやすい構造、そして美しいシルエットが見事に融合しており、デザイン性と実用性を兼ね備えた一脚です。現在では宮崎椅子製作所において現代のニーズに合わせて改良を加えながら製造が続けられていますが、希少なチーク材やローズウッド材を使用したヴィンテージ品では、その材の魅力やヴィンテージならではの雰囲気、シャープなフレームの造形も魅力的です。また、ヴィンテージの中でも製造年代によって細部の仕様に違いがあり、それぞれの特徴を知った上で、お好みのものを選んでいただければと思います。半世紀以上前のデザインながら現代の生活スタイルにも対応するカイ・クリスチャンセンのNo.42は、これからも多くの人々に長く愛され続けることでしょう。ぜひこの機会に、あなたもその魅力を体験してみてはいかがでしょうか。
北欧家具tanuki 北島